FMEA(故障モード影響度解析)とは?製造業における重要性やFTAとの違いを解説 |
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製造業で開発や生産プロセスの改善をおこなう際に、FMEAというツールの存在を聞いたことがある人もいるかと思います。FMEAは「Failure Mode and Effects Analysis」の略称で、日本語で故障モード影響解析と呼ばれています。
この記事では、全国10,000箇所を超える現場DXを支援してきた「カミナシ」がFMEAについて分かりやすく解説します。製造業におけるFMEAの重要性や3つの分類、FMEAの進め方を具体例とともに紹介していきます。 「FMEAを活用すれば不具合を減らせるのかな……」 「製品開発でFMEAを導入したいけどやり方が分からない……」
上記のような悩みがある場合はぜひご覧ください。FMEAを製造現場に取り入れれば、品質向上が狙えるだけでなく不具合対応にかかるコストや時間を減らすことにつながります。 FMEAの目的と重要性FMEAは、製品や製造ラインで発生する可能性がある問題を事前に見つけ、あらかじめ対策を打っておくことを目的とした解析手法です。
何か新しいものを開発・導入する際に問題が起こるのはつきものです。しかし、その問題を放置してしまうと、量産し始めてから市場で起こる不具合や品質不良につながりかねません。FMEAをおこない問題が起こるリスクを最小限にしておけば、製品の信頼性向上につながります。
FMEAの始まりはNASAやJAXAなど重大事故が予想される航空宇宙分野といわれています。その後、自動車業界をはじめ、医療機器、電子機器などさまざまな分野で応用され、製品や製造ラインの品質管理に活用されてきました。現代では製造業だけにとどまらず、サービス業や財務などの非製造業でもリスク管理の方法として注目されています。 FMEAの重要性FMEAの役割は、開発や製造ライン立ち上げ前のタイミングで品質不具合の可能性を軽減させることです。量産体制に入ってから問題が起こってしまうと、製品の回収や原因特定に時間がかかってしまう場合が多くあります。FMEAを事前におこなっておくことで、量産体制に入る前に問題のつぶしこみが可能になり、欠陥品の流出や製造ライン停止による顧客満足度の低下を防げます。 また、FMEAは製造現場のリスク低減だけでなく、顧客への価値提供という観点でも役立つツールです。FMEAによって洗い出した問題点や対策を積み重ねることで、類似製品や次世代製品を開発するときの設計ノウハウが蓄積されていきます。蓄積されたノウハウをブラッシュアップしていくことで顧客に対して故障リスクの低い製品を提供できるので、会社としても信頼されるようになるのです。 IATF16949やISO9001との関連性FMEAは自動車業界の品質マネジメントシステムの国際規格であるIATF16949やISO9001とも密接にかかわっています。
IATF16949では、製品や製造ラインの品質を確保するために重視すべき5つのコアツールを定めており、FMEAもそのなかの一つです。コアツールとして用いられている理由としては、FMEAが企業のリスク管理を重要視するための手法として役立つからです。 また、ISO9001をベースに自動車業界に特化した要求事項を追加したのがIATF16949なので、ISO9001においてもFMEAは重要な役割をしています。具体的には、ISO9001の要求事項8.3.3「設計・開発のインプット」の項目に対して、設計ノウハウや製品に起因する失敗についてFMEAが関わってきます。
このように、FMEAはリスク管理や不具合の防止という観点からもIATF16949やISO9001などの品質マネジメント規格で重要な役割を果たしているのです。 FMEAの3つの分類製造業においてFMEAを取り入れるメリットは多くあります。製品や製造ラインのリスク管理に役立つFMEAですが、着目する視点によって主に以下の3つに分類されます。 工程FMEA 設計FMEA 機能FMEA
製造ラインにおけるリスク管理は工程FMEA、製品の開発に関するリスク管理は設計FMEAや機能FMEAが活用されます。
FMEAとしての大まかな流れは同じですが、対象となる故障モードが変わってきます。ここでいう故障モードとは故障を引き起こす原因のことを指し、故障そのもののことではありません。それぞれのFMEAで着目する点や分析の方法について、具体例とともに見ていきましょう。 工程FMEA工程FMEAは、製造ラインで作業者がおこなう作業によって発生する可能性がある問題に着目する手法です。
このFMEAでは、製造ラインでおこなわれる作業を抽出し、それぞれの作業で起こりうるミスや故障にもとづいて故障モードを洗い出します。そして、各故障モードに対して分析をおこない、ミスや故障が起こらないように対策を講じる流れです。
自動車のドア組み立て工程を例にすると、以下のような故障モードおよび対策が考えられます。
故障モード 対策 治具にセットする部品を間違える 治具形状を部品ごとの形にする 治具に指を挟まれてけがをする 挟まれ防止のシステムを組み込む 部品をセットし忘れる センサーでセット状況を確認できるようにする
工程FMEAを活用することは、製造工程の改善や製品の品質維持に役立ちます。 設計FMEA設計FMEAは、製品の設計段階で考えられる欠陥やリスクを抽出して対策を講じる手法です。
まず設計した製品が期待通りに機能する状況をベースに、発生しうる故障モードの規模や確率をもとに点数付けします。各故障モードを洗い出したのち、優先順位を付けて重大な故障モードからつぶしこんでFMEAをおこなっていく流れです。
自動車のドア設計を例に故障モードと対策を考えると、以下のようになります。
故障モード 対策 ドアから水漏れが発生する 水漏れにつながる経路を解析で見つけておく ドアを支えるボルトが割れる ボルトの耐久力を大きめに見積もっておく ドア成型時に熱で変形する 熱に強い材料を選定しておく
設計FMEAでどれだけ故障モードの対策をおこなっておくかが、量産工程での課題発生を防ぐことにつながります。
![]() 機能FMEAは、製品やシステムの機能に着目しておこなうFMEAであり、設計FMEAの対象箇所を細かくしておこなわれるFMEAといえます。
複雑な構造の製品やシステムになるとFMEAをおこなう必要のある部品やシステムが多くなりすぎるため、各機能にしぼってFMEAを実施することを指します。
例えば、自動車のドアを例に挙げると「窓を開ける」という機能に重点をおき、その機能に関わる部品であるガラス、スイッチ、昇降機などに細分化してFMEAをおこなうイメージです。一般的な設計FMEAよりも詳細な分析ができるので、製品においてとくに重要な部品や機能に対しては機能FMEAをおこなっておきましょう。 FMEAの進め方ここまで解説してきたFMEAですが、フォーマットを作り上げるまでには一般的な流れがあります。
メンバーを集める準備から対策を講じるまでに実施することを把握しておけば、より精度の高いFMEAフォーマットの作成が可能です。ここでは、6つのステップに分けてFMEAの具体的な進め方を解説していきます。 チーム作り フォーマットの準備 作業ステップの洗い出し FMEAの点数付け リスクの計算 リスクへの対策
FMEAの進め方で重要なのは「どれだけ抜け漏れなく故障モードを洗い出せるか」です。故障モードの洗い出しが不足していると、必要な対策が取れていなくて正確にリスク管理ができません。
現場で役に立つFMEAフォーマットを作り上げるためには各作業に詳しい人をしっかりと選抜して、さまざまな側面から故障モードを抽出していくことが大切です。自社の事例に落とし込んで一緒に見ていきましょう。 チーム作りFMEAを作り始める前に重要なのは、組織の枠を超えたメンバーを集めてチームを作ることです。製造現場で効果の出るFMEAを作り上げるには、異なる知識を持ったメンバー同士で意見交換する必要があります。ここでは、自動車のドア製造工程に関するFMEAを作り上げる場合のチーム作りを例に挙げます。
まずはドアの製造工程に関して「製造装置に詳しい人」「現場の作業に詳しい人」など専門分野の違う人を集めます。次に、集めたメンバーを「板金」「塗装」など工程ごとのチームに分けます。このとき、1チームは4、5人いれば十分です。そして、各工程のチームで作成したFMEAをまとめればドア製造工程のFMEAが出来上がります。
板金工程チーム 塗装工程チーム 仕上げ工程チーム 製造装置に詳しい人① 製造装置に詳しい人② 製造装置に詳しい人③ 現場の作業に詳しい人① 現場の作業に詳しい人② 現場の作業に詳しい人③ 品質管理に詳しい人① 品質管理に詳しい人② 品質管理に詳しい人③ プロセス設計に詳しい人① プロセス設計に詳しい人② プロセス設計に詳しい人③ フォーマットの準備FMEAを作成するチームを決めたら、実際に使用するフォーマットを準備します。FMEAには以下のような基本フォーマットがあります。
故障モード 故障が与える 具体的な影響 重要度 作業ミスが 発生する原因 発生度 検出するために 行っていること 検出度 リスク (RPN)
簡単に説明すると、具体的な故障モードを「故障による影響」「発生頻度」「検出レベル」の3つの指標で評価し、どれだけリスク(RPN)の高い事象なのかを判断するものです。
最終的なリスク(RPN)は、上記の表の「重要度」「発生度」「検出度」をかけ合わせて計算されます。ここでいうRPN(Risk Priority Number)とは日本語で「リスク優先度」とも呼び、RPNの数値が高い故障モードほど優先的に対策する必要があることを意味しています。
フォーマットに沿って故障モードのリスクを判断することで、具体的な影響を見える化でき比較することが可能です。 作業ステップの洗い出しフォーマットを用意したら、実際の作業ステップを洗い出していきましょう。故障モードを直接書き込んでいくのではなく、具体的な工程の段階から考えられるミスを洗い出していくと抜け漏れを防止できます。ここでも自動車のドア製造工程を例に、表を見ていきましょう。
工程 作業の分類 実際の作業 考えられるミス 故障モード 板金工程 ドアの組み立て パレットのラベルを見て部品を持ってくる 間違った部品を 持ってきてしまう 部品間違い
まずは最初にチーム分けした工程を記入し、その工程でおこなわれる作業の分類を入れます。その後、実際の作業を一つずつの動作に分解して洗い出し、動作ごとに考えられるミスを抽出します。そして、最後にミスが起こった場合に発生する故障モードが決まるのです。作業ステップの洗い出しはFMEAをおこなうときに一番重要なポイントなので、抜け漏れがないように時間をかけて作業を洗い出しましょう。 FMEAの点数付けFMEAには「故障による影響」「発生頻度」「検出レベル」の3つの指標があると説明しましたが、リスクを算出するためにはこれらの指標の点数付けが必要です。点数と具体的な影響を以下の表にまとめましたので参照してください。
点数 故障による影響 発生頻度の目安 検出レベル 10 機能しない 毎回 検出できない 9 ある条件下で機能しない 1回/日 工程で10%検出できる 8 機能しない可能性がある 1回/週 工程で20%検出できる 7 ある条件下で機能が低下する 1回/2週 工程で30%検出できる 6 機能が低下する可能性がある 1回/1か月 工程で50%検出できる 5 機能するが、改善が必要 1回/半年 工程で70%検出できる 4 機能するが、改善した方が良い 1回/1年 後工程で100%検出できる 3 影響ないと判断できる 1回/3年 次の工程で100%検出できる 2 無視できる影響 1回/5年 作業の中で検出できる 1 影響なし 発生しない その場で100%検出できる
各工程の作業に対して具体的に点数付けをおこなうことで、より正確なリスクを判定できます。 リスクの計算故障モードに対する点数付けが終わったら「重要度」「発生度」「検出度」をかけ合わせることでリスク(RPN)が算出できます。ここでは、ドアの板金工程での部品間違いを例に、リスクを計算してみましょう。
故障モード 故障が与える 具体的な影響 重要度 作業ミスが 発生する原因 発生度 検出するために 行っていること 検出度 リスク (RPN) 部品間違い 機能しない 10 ラベルが小さくて見にくい 6 後工程で機械による検査がある 4 240
上記の事例の場合、リスク(RPN)を計算すると240となります。
部品を間違えた場合の重要度は大きく、発生頻度もあまり抑えられていません。後工程で検出する仕組みはありますが、その場での検出にはいたっていないので、検出レベルもそこまで高くはないといえます。一般的に「RPNが100を超えると改善が必要」といわれているので、RPNが100を超えないように工程の改善をおこないましょう。 リスクへの対策計算したリスク(RPN)が100を超えていた場合、不具合の発生を抑えるためにも工程の改善が必要です。発生する故障モードの重要度は変えられないので、RPNを下げるための対策は主に以下の2つになります。 発生頻度を下げる 検出レベルを上げる
先ほどのドア製造工程の部品間違いを例に考えてみましょう。
作業ミスが発生する原因がラベルの小ささであれば、ラベルを大きくして目に留まるようにすれば発生頻度を抑えられるかもしれません。また、後工程でしか検出できないのであれば、その場で検出できるシステムを導入して検出レベルを上げるのも良いでしょう。
このようにしてRPNが100を下回るまで改善を続けることで、工程での故障モードの発生を未然に防げます。 まとめFMEAは最初のフォーマット作りや故障モードの洗い出しなど作り上げるには大変なところがあります。
しかし、作り上げてしまえば各工程のノウハウが蓄積されていくようになるので、品質不良を抑えて顧客の信頼獲得に向けた大きな武器になります。FMEAをおこない問題が起こるリスクを最小限に、製品の信頼性向上につなげましょう。
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