命令? |
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ついに夏休みがやってきた。 生徒のほとんどが、休みと同時に家に帰っていく。私は週四で、食堂で働いている。残っている生徒が少ないので、人もそんなに要らないらしい。お休みの日は買い物に出かけたり、図書館で勉強だ。 今日は図書館で勉強。 相部屋のマリアは、昨日実家に帰って行ったので、しばらく一人だ。 マクゼガルド家での事件があってから、一人は少し怖くなってしまったけれど、何とかやっている。 「やあ、アリサちゃん」 声をかけられて顔を上げると、部の先輩のライアン・グルーだった。 「こんにちは。グルーさま」 私は頭を下げる。 「ああ、堅苦しいなあ。ライアンでいいって言ってるでしょ?」 「……えっと」 グルーは相変わらず懐っこいひとだ。 「先輩ですし、グルーさまは伯爵家の方ですし」 グルーの家は伯爵家の中でも名門で、古い家柄なのだそうだ。たくさんの魔術師を輩出している。 爵位が『伯爵』であるだけでなく、父親は宮廷魔術師の長だし、兄は軍の魔術師の首席だそうだ。 魔力が高いということは貴族のステータスでもある。グルー家はかなり裕福で、しかも国の中枢にいる家だ。 「駄目だよ。だってうちの部はみんな名前呼びだし。そもそも学院にいる間は爵位の話はなしでしょ?」 「それは……建前ですよね?」 はっきり思い出せるわけではないけれど、前世の日本ですら本当に『平等』ではなかったと思う。ただ、日本の場合、法律が『平等』だった。 ここは法律で『階級社会』が肯定されているのだから、いくら学院が平等を謳っていてもそんなものは『建前』でしかない。 「それはそうだけれど。じゃあ、ぼくの命令ってことにしようか」 「命令ですか?」 「うん。命令」 グルーはそう言って、私の前に座った。 どうやら今日は一緒に勉強をすることになったみたいだ。 グルーは、くせっけのライトブラウンの髪をしていて、眼鏡をかけている。少々軽いところがあるけれど、すごく面倒見がよい。同じ部活にルークがいるからそれほど目立たないけれど、くりっとした目をしていて、女子に人気があるひとだ。 実際、ルーク狙いで入ったはずなのに、彼を指導係にした、クレア・ファニス子爵令嬢は、すっかりグルーに懐いていて、彼女とは私も話が出来るようになった。あとの二人は未だに私を敵視していて、打ち解けることができないけれど。 「グルーさまはご実家にお帰りにならないんですか?」 「アリサちゃん?」 ちろりと、グルーは私を睨む。 「えっと。ライアンさま?」 「呼び捨てでいいけれど、さすがにそれはしんどそうだね」 グルーはくすりと笑った。 「もうすぐ帰るよ。あまり早く帰りたくないんだ。ほら、ぼく、まだ婚約者がいないから」 「ええと。お帰りになると、釣書の山が待っているとかですか?」 そういえば、ルークがそんなことをちらりと言っていた。 「ええと。山にはならないよ」 にこにことグルーが笑う。 「ぼくは次男坊だからねえ。そんなに良い物件でもないよ。魔力は高いけれど、それだけだしね。学院を出て、出世でもしたら話は違ってくるかもしれないけれど」 でもグルーは人当たりがいいから、社交とか上手そうだと思う。 「逆に、学院で誰か捕まえろってうるさくてね」 「ああ、そういう話ですか」 貴族も大変だなあと思う。学院は勉強する場であると同時に人脈を作る場でもあるし、将来のパートナーを探す人たちも多い。 「ちなみに、どういう女性がタイプなのですか?」 「うーん。アリサちゃんみたいな子かな?」 グルーはウインクをした。 「からかわないでください」 私は頬を膨らます。冗談だとはわかっているけれど、男性にそんなことを言われるのはなれていなくて、さすがに頬が熱い。 「からかっているわけじゃないよ? ぼく、まだ命が惜しいから、これ以上何も言わないけれど」 「命?」 グルーは何を言っているのだろう。 「えっと。自覚ない? ないだろうなあ」 「私、別にライアンさまに危害を加えたりはしませんけれど?」 ぷっとグルーが笑いだした。 「や、もう。アリサちゃん、本当に面白いね」 何がそんなに面白いのかさっぱりわからない。 ずっと苦しそうに笑っていたグルーが、私の後ろを見て動きを止めた。 「ライアンさま?」 どうしたのだろう? そう思ったとき、後ろに気配を感じた。 「図書館でうるさいぞ、お前ら」 重低音の声で注意をしてきたのは、ルークだった。 「すみません。マクゼガルドさま」 私は慌てて謝罪する。 「ああ、じゃあ、アリサちゃん、ぼく、これで帰るね。ルークさま、失礼いたします」 ささっと机に広げていたものをカバンにつっこむとグルーは立ち上がる。 「ライアンさま?」 グルーはさっき来たばかりで、しかも私とずっと話していたから、結局何もしていないんじゃないかと思うのだけれど。 ルークの横顔をそっと見上げると、すこぶる不機嫌な顔をしている。彼の周りから冷気が吹いてきているようにも感じた。 ちょっと怖い。 静かにしなきゃいけない図書館でついおしゃべりしてしまったから、うるさかったのかもしれない。 グルーはあっという間にいなくなってしまった。 「うるさくして申し訳ありませんでした」 私はもう一度頭を下げる。 「何故、ライアンを名前で呼ぶ?」 ルークの声が不機嫌だ。うん。そりゃそうだ。平民の私が恋人でもないのに名前呼びしていたらおかしい。 「やっぱり不敬ですよね」 部活内は平等だって言っても、それはやっぱり建前だ。爵位を持っている貴族ならともかく、全くの平民の私もそうだと思うのは間違いなのだろう。 「グルーさまは、気さくな方で……その、名前を呼ぶようおっしゃっていただいたのですが、やっぱりご迷惑がかかりますよね。改めます」 「名前を呼ぶように言ったから、呼んだのか?」 ルークの声は相変わらず冷ややかだ。なんだか尋問されている気分になる。 「……正確には、命じられましたので」 無論、グルーに悪意はないことはわかっている。彼は私を後輩として可愛がってくれているのだから。 「なるほど」 ルークは頷いて、先ほどまでグルーが座っていた私の前に腰を下ろした。 思わずたじろいでしまうくらいのまなざし。 まだ怒っているのか、顔に笑みはない。 「……マクゼガルドさま?」 「違う」 ルークはぎろりと私を睨みつけた。 「ルークと呼べ。これは命令だ」 「え?」 待って。なんで? グルーを名前で呼んだから? 「でも、不敬では?」 伯爵家のグルーを名前で呼ぶのが不敬なら、公爵家のルークを呼べるわけはないのに。 「俺は随分前に、呼んでも構わんと言った」 一度冗談でそんな話をした気はするけれど。あくまで冗談だ。 「エリザベスは名前で呼ぶのに、俺は家名っておかしい」 ルークは口をへの字に曲げる。 「そもそもお前の指導係は俺だ。何故、俺を差し置いて、ライアンを先に名前で呼ぶ?」 えっと。これはひょっとして、ルークは拗ねているのだろうか? いや、まさかとは思うけれど。教え子を取られちゃったみたいな感じなのかも? 「私みたいな平民がお名前をお呼びしたら、ご迷惑ではないのですか?」 「うちの部活は基本、みんな名前呼びだ」 「それはそうかもしれませんが」 まだ一年生はそこまで打ち解けていない。私以外の一年生が、ルークを名前呼びしているのはみたことないし。 「アリサ」 ルークが私を睨む。圧が強い。ちょっと怖い。 ただでさえ端整な顔をしているルークだから。ぞくりとくるほど酷薄な顔に見えてしまう。 「……ルークさま」 おそるおそる声に出してみる。 「うん、それでいい。これからはそう呼ぶように」 ルークの不機嫌な顔が、満足げな笑みに変わった。 思わず胸がドキリとしてしまい、私は慌ててノートに目線を落とす。 エリザベスの誕生お祝いの夜会は、原作と随分変わったけれど、まだまだ私が堕ちる未来が消えたわけではない。油断してはだめだ。 原作のアリサ・トラウが暗躍するのは、ここから先になるのだから。 私はそっと心を引き締めたのだった。 |
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