【標準生成エンタルピー】を解説:反応熱計算における基準となるエンタルピー |
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概要 化学反応においては、生成物質と原料物質のエンタルピー差が反応熱となります。 そのため、各物質のエンタルピーを求めることが重要ですが、エンタルピーは基準をどのように設定するかで絶対値が変わります。 そこで、基準となる標準状態と標準物質が設定されました。 標準状態:1atm、298.15K=25℃標準物質:元素の単体のうち、最も安定な物質これらの基準に沿って、ある化合物1molが標準状態において標準物質から生成するときに生じるエンタルピーを標準生成エンタルピーΔHof[kJ/mol]、もしくは標準生成熱といいます。 詳細な定義標準状態において最も安定な単体元素のエンタルピーをゼロと定義しています。 気体分子酸素元素Oや水素元素Hは、それそれO2やH2のような気体分子が最も安定的です。 したがって、O2やH2のエンタルピーはゼロとなります。 結晶形による安定性炭素CやスズSNは異なる結晶形を取り得ます。 この場合は、標準状態において安定な単体のエンタルピーをゼロとします。 例えば炭素Cの場合は黒鉛のエンタルピーはゼロとなりますが、ダイヤモンドのエンタルピーはゼロとなりません。 相の状態物質の相の状態によって標準生成エンタルピーは異なります。 例えばH2OはH2O(g)、H2O(l)のように括弧書きで区別します。 H2O(g):ΔHof=-241.83 kJ/molH2O(l):ΔHof=-285.84 kJ/mol上に具体的な標準生成エンタルピーの値を示しました。 液体を気体へと蒸発させるにはその分熱を加える必要があり、この蒸発潜熱の値が気体と液体の標準生成エンタルピーの差分である44.01kJ/molとなります。 ただし、この値はあくまでも標準状態(1atm、298.15K)での蒸発潜熱で、温度が変化した場合には蒸発潜熱も変化することに注意しましょう。 標準反応エンタルピーの計算標準生成エンタルピーを使用することで、様々な化学反応の反応熱を計算することができます。 標準状態における反応熱のことを特に標準反応エンタルピーΔHo298.15[kJ]、もしくは標準反応熱といいます。 $$aA+bB→cC+dD・・・(1)$$ 仮に、(1)式のような化学反応である場合、標準反応エンタルピーは、 $$Δ{H^{o}}_{298.15}=(c{H^{o}}_{fC}+d{H^{o}}_{fD})-(a{H^{o}}_{fA}+b{H^{o}}_{fB})・・・(2)$$ ΔHofA、ΔHofB、ΔHofC、ΔHofD:成分A,B,C,Dの標準生成エンタルピー[kJ/mol] (2)式のように各成分の標準生成エンタルピーから計算できます。 ちなみに、(2)式のように反応熱をエンタルピー差から計算できる法則のことをHessの法則といいます。 Hessの法則については、以下の記事で解説しています。 ![]() ある化学変化によって起こるエンタルピー変化量は、途中で様々な中間反応が起こったとしても最終的に同じ化学変化の状態に行き着くならばエンタルピー変化量は同じとなります。これをHess(ヘス)の法則といいます。 続きを見る
具体例として、(3)式のようなアンモニアが生成する反応を考えます。 $$\frac{1}{2}N_{2}(g)+\frac{3}{2}H_{2}(g)→NH_{3}(g)・・・(3)$$ 各物質の標準生成エンタルピーは、文献などを参照して値を調査します。 N2(g):ΔHof=0 kJ/molH2(g):ΔHof=0 kJ/molNH3(g):ΔHof=-46.19 kJ/molここでは、上のように値が与えられているとすると、(3)式の標準反応エンタルピーは、 $$Δ{H^{o}}_{298.15}=(1×(-46.19))-(\frac{1}{2}×0+\frac{3}{2}×0)=-46.19\rm{kJ}・・・(4)$$ -46.19kJとなります。 (3)式は単体であるN2、H2が含まれており計算が簡単でしたが、化合物のみの反応式でも同じように計算すれば標準反応エンタルピーを算出できます。 任意の温度における反応熱化学反応は温度を上げる方が反応速度が速くなるため、標準状態の25℃以外の温度で行なうことも多く、任意の温度における反応熱を知りたい場合もあるでしょう。 その場合は、標準反応エンタルピーを基準とし、定圧比熱の差ΔCpを温度で積分すれば任意の温度Tにおける反応熱ΔHoT[kJ]を算出できます。 $$Δ{H^{o}}_{T}=Δ{H^{o}}_{298.15}+\int_{298.15}^{T}ΔC_{p}dT・・・(5)$$ 仮に(1)式の反応式の場合、ΔCpは、 $$ΔC_{p}=(cC_{pC}+dC_{pD})-(aC_{pA}+bC_{pB})・・・(6)$$ (6)式のように生成物質の定圧比熱と原料物質の定圧比熱の差から算出できます。
例として、(3)式のアンモニア生成反応について、500℃(773.15K)における反応熱を求めることを考えます。 N2:Cp=26.983+5.9099×10-3T-0.3376×10-6T2H2:Cp=29.066-0.8364×10-3T+2.0117×10-6T2NH3:Cp=25.464+36.869×10-3T-6.3011×10-6T2各物質の定圧比熱が上のように与えられているとします。このときΔCPは、 $$\begin{align}ΔC_{p}&=(1×(25.464+36.869×10^{-3}T-6.3011×10^{-6}T^{2}))\\&-(\frac{1}{2}×(26.983+5.9099×10^{-3}T-0.3376×10^{-6}T^{2})\\&+\frac{3}{2}×(29.066-0.8364×10^{-3}T+2.0117×10^{-6}T^{2}))\\&≒-31.6265+3.5169×10^{-2}T-9.1499×10^{-6}T^{2}・・・(7)\end{align}$$ (7)式となります。 したがって、(5)式から、 $$\begin{align}Δ{H^{o}}_{773.15}&=-46.19+\int_{298.15}^{773.15}(31.6265+3.5169×10^{-2}T-9.1499×10^{-6}T^{2})dT\\&≒-46.19-7.40≒-53.59\rm{kJ}・・・(8)\end{align}$$ 500℃(773.15K)における反応熱は-53.59kJとなりました。 おわりに標準生成エンタルピーについて解説しました。 反応熱を算出するために標準生成エンタルピーを利用することがほとんどです。 特に反応器の伝熱計算では反応熱を正確に見積もることが非常に重要で、標準生成エンタルピーがわかる物質であれば簡単に反応熱を求めることができます。 |
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